2 和声法


「和声」という言葉は聞いたことがあるけれど、どういうものなのかよくわからない…。そんな方は少なくないのではないでしょうか。「和声って和音とどう違うの?」「コード理論のことじゃないの?」そんな声も聞こえてきそうです。


音楽の世界には、「音楽の三要素」と呼ばれるものがあります。メロディ、ハーモニー、リズムの3つで、どれも曲を成立させるためには欠かせません。クラシックはもちろん、J-POPも、アニソンも、ゲーム音楽も、吹奏楽曲も、JAZZのスタンダードも、私たちが日頃耳にするほとんどの音楽は、これら3つの要素でできています。このうちの「ハーモニー」を指す日本語が和声なのですが、似たような言葉で「コード」というものもよく耳にします。これらはどう違うのでしょうか?

和声(わせい、英語: harmony)は、西洋音楽の音楽理論の用語で、和音の進行、声部の導き方(声部連結)および配置の組み合わせを指す概念である。

引用元:Wikipedia

概念である…と言われても、よくわかりませんよね。なので、できるだけ簡単に考えてみましょう。

まず「和音」というのは、同時に複数の音が鳴っている状態です。ただその事実を示しているだけで、それ以上の意味はありません。これに対して「和声」には前後関係が必要です。例えば、曲の中である和音が鳴っていて、別の和音に移って行くとします。すると、最初の和音と次の和音に関係性が生まれますよね。組み合わせによって、音の印象が異なるのです。

V → I V → VI V OO

このように、後続の和音によって雰囲気が変わります。

これが和声の最も基本的な考え方です。最低でも2つ以上の和音が連続して、初めて和声が生まれるというわけですね。また、和音そのものの連結だけでなく、各構成音の連結も重要です。

まずはシンプルに、これだけにしておきましょう。ちょっとイメージが湧いてきましたか?

ちなみに、この和声の概念を具体的なテクニックとして体系化したものは「和声法」、学問として研究対象にしたものは「和声学」と呼ばれるのですが、実際にはあまり明確に区別されていないので、まぁ似たようなもの、と思っていて差し支えありません。専門家になるわけではないですし、ここでは全部ひっくるめて、単に「和声」と呼ぶことにしましょう。

では、この和声がどのように役に立つのか、ある高校の吹奏楽部メンバーのストーリーを通して一緒に見ていきたいと思います。

ハモーズ中学校 吹奏楽部 サックスパート和声編

それほど昔でもないあるところに、ハモーズ中学校(以下ハモ中)という少々風変わりな学校がありました。そのハモ中吹部のサックスパート4人のお話です。

いつも仲良しの4人は、アンサンブルコンテストに出るために、サクソフォンカルテットを組むことにしました。ところが、演奏しようと思っていた「月」のサックス4重奏譜はどこを探しても売っていません。他の曲にしようかと迷ったものの、この曲をどうしても諦めたくなかった彼らは、思い切って自分たちで編曲してみることにしました。

ソプラノサックス担当の キャモ は、ダンスが得意なギャル。
「アタシはリズミカルなアレンジにするわ♪」

アルトサックス担当の チャーモ は、ギターも弾けるバンドマン。
「オレ、コード進行とかわかるんだぜ!」

テナーサックス担当の ニアモ は、ピアノを習っているお坊ちゃま。
「ぼく、伴奏ならつけられるかもね」

バリトンサックス担当の スワモ は、好奇心旺盛なお調子者。
「ふぁ〜、編曲にはちょっと自信ありますも」

そして数日後、皆それぞれが編曲した楽譜を試しに演奏してみる日がやってきました。

最初は、キャモの編曲です。

▶︎ボタンで楽譜の音が再生できます。

ダンサーらしい、ノリのいいアレンジです。
うさぎが跳ねているような雰囲気も表現されていますね。
ただ、同じ音が長く続くので少し単調にも聞こえます。

次は、チャーモの編曲です。

さすが、コードを知っているだけあって様々な和音が使われています。
とくにラストの2小節の変化が素敵ですね。
でも、キャモとは別の物足りなさを感じませんか?
使われる和音の種類は多いものの、音を伸ばしっぱなしなのが原因のようです。

続いて、ニアモの編曲です。

ピアノの経験が生かされたバランスの良いアレンジになっていますね。
ところが、せっかくサックスで演奏するのにメロディ以外が伴奏のようになってしまったのは惜しいところです。
4人それぞれが活躍できるように、もう一工夫できると良いのですが・・・

最後は、スワモの編曲です。

最後の編曲を聴き終えると、みんなが口々に言いました。
「すごいや、スワモ!」「プロの作曲家みたい!」「どうしてこんな編曲ができたの?」

その通り、彼の編曲はそれぞれのパートが独自のメロディを奏でながらも、全体で色彩豊かなハーモニーを作り出すものでした。

スワモは少し照れながら、得意気に答えました。
「それはね、和声を勉強したことがあるからですも」

和声の真髄

冒頭の説明では、

和声 = 和音の進行、声部の導き方(声部連結)および配置の組み合わせを指す概念

とありました。和音の進行という観点では、コード進行の心得があるチャーモの編曲もよくできていましたが、各声部(パート)の動きや誰にどの音を吹かせるかは深く考えられていなかったはずです。その点、和音進行だけでなく個々の楽器の動きについても重視していることが、他の音楽理論には見られない和声法の大きな特徴と言えます。

ピアノやギターのように、一人で和音を奏でられる楽器もある一方で、歌や管楽器、弦楽器などは、基本的に単音しか出すことができません。和音を奏でるためには、合唱や合奏という形で皆が各々の構成音を担当し、全体で協力して和音を作る必要があります。チャーモの楽譜を縦に切り出すと、その瞬間ごとには適切な和音が鳴っていますが、横に切り出してメロディ以外のパートを見ると、あまり音楽的なフレーズとは言えません。縦(和音)と横(旋律)のバランスをとりながら、パズルのように各パートの演奏すべき音を組み立てることが和声の真髄なのです。

和声を体系化した和声法には、様々な制約があります。例えば、特定の2パートが連続して完全5度音程を鳴らしてはいけなかったり、増進行をしてはいけなかったり、上行あるいは下行しかできない音があったり、このようなルールを「禁則」と呼び、音の動かし方を制限しています。もちろん禁則にはそれ相応の理由があるのですが、実際の楽曲では敢えて禁則を破ることも少なくありません。例えるなら、和声における禁則は格闘家が修行する際に手足に付ける「重り」のようなものです。つまり、和声法の学習段階では禁則で固められた条件下で音を動かす訓練をすることによって、枷が外れた実戦=本当の作曲では自由自在に音を操ることができる、というわけです。とはいえ、和声法を習熟するにはそれなりの時間がかかるため、手軽に和声のエッセンスを取り入れられる作曲テクニックをひとつご紹介したいと思います。

スムーズ&スマート

和声法には「できるだけ近いところに移動させる」という基本があります。例えばチャーモの編曲では、2小節目に3rdが「ド」を、3小節目には2ndがオクターブ上の「ド」が吹くように書かれていますが、特別な意図がない限り共通音は保留(オクターブ変えたりもせず同じパートに担当)させるのが「できるだけ近いところに移動させる」ことになります。無駄な動きを避け、特定のパートが突出することなく、流れる小川のようにさらさらと、スムーズかつスマートに進んでいくように音を配置していくのが和声的なアプローチというわけです。

なお、メロディとベースは例外ですので、補足しておきたいと思います。編曲の場合はメロディが決まっているので、音の移動先に選択の余地はほとんどありません。ベースには根音を演奏させることが多いので、必然的に4度や5度の跳躍が多くなります。これはベースの許容されることで、特別扱い。なお、ここでのベースは “最低音部” という意味です。彼らのケースではバリトンサックスでしたが、オーケストラならコントラバスやチューバ、バンドならエレキベースなど、音楽ジャンルや編成によってベースを担当する楽器も変わることになります。

和声法が本領を発揮するのはオーケストラや吹奏楽、アンサンブル、合唱といった「単一パートの集合体」でできている音楽ですが、ピアノやギターのようなコード楽器においても役立つ場面は多くあります。

もし少しでも面白そうだと感じたら、和声法を学んでみませんか?これからの曲作りに役立つこと間違いなしです