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6-2 音律

音程の数比を発見したのは、三平方の定理で有名な数学者、ピタゴラスです。鍛治職人の打つハンマーの音がキレイにハモっていたので、重さを計ってみると単純な整数比でした。そこからヒントを得て、管や弦の長さを半分にすると周波数は倍になる(ぴったり1オクターブ上がる)ことに気付いたそうです。

管や弦の長さを半分、または倍にすると、元の音から上下にオクターブ違いの音が出ることはわかりました。つまり完全8度の周波数比は2:1ということです。では完全5度はどうかと言うと、周波数比は3:2。例えば440HzのAの弦が2/3になるところを押さえると660HzのEが鳴るわけです。

管や弦の長さが1/3短くなれば元の音より完全5度高くなることを「三分損一」、逆に1/3長くなれば元の音より完全4度低くなることを「三分益一」といいます。これらを組み合わせて音階の各音を得る手法を「三分損益法」、そしてこのように導き出された音階各音の相対関係の規則を「音律」といいます。

三分損益法は東洋生まれですが、西洋には同様の考え方で導き出す「ピタゴラス音律」があります。3:2の純正な完全5度を重ねることで得られる音を使って音階を作るというものです。具体的には、任意の音(Dで考えるとわかりやすい)から完全5度を上下に3回ずつ取ると、その音をiiとする音階ができます。

実際にやってみるとDから上にA-E-B、下にG-C-F、これでCDEFGABが出揃いCmajorの音階を作ることができますね。さらに拡張すると上にはF#-C#-G#、下にはBb-Eb-Abとなり半音階も作れます。そして上下に拡張した完全5度は最終的にG#≒Abに辿り着きました。「=」ではなく「≒」というところがポイントです。

ピアノの鍵盤上なら「=」ですが、純正な完全5度堆積を重ねて辿り着いた先の音は、7オクターブと23.46セント高くなります。セントというのは半音を100等分した単位なので、23.46セントは半音の1/4程度ですね。聴き分けるのが難しいくらい微細な音程です。この差分は「ピタゴラスコンマ」と呼ばれます。

完全8度が2:1、完全5度は3:2であるように、完全4度は4:3で純正な音程になります。三分益一により管や弦を1/3伸ばすと元の長さの4/3になる事を考えれば合点がいきますね。ただピタゴラス音律はこれらの完全協和音程こそ純正ですが、それ以外の音程は純正な比になっていません。特に3度と6度が問題です。

ルネサンス以前の音楽はそれでも良かったのですが、時代が下るにつれて3度や6度を含む曲が増えてきました。ピタゴラス音律で演奏する長3度は、純正と比較して約21.506セント(半音の1/5程度)広い音程が鳴るため、最も心地よい響よりもかなり高く、調律が狂っているかのような印象になってしまいます。

ならば全ての音程を純正にすれば良いということで見直されたのが「純正律」です。ちなみにピタゴラスが音程の数比を発見していたわけなので当たり前なんですが、”周波数が単純な整数比となる音程のみで調律する”という考え方自体は紀元前から存在していました。でも、長らく忘れられていたんですね。

純正律で美しく響く和音は限定的で、そのメリット以上に多くのデメリットを抱えているため実用的でないとされていました。また、そもそも純正音程は自然科学の範疇にあるもので、人間が決めた”音律”という概念には当てはまらないと考える向きもありました。純正だから万能というわけではないんですね。

純正律が純正音程を作り出せるのは、あらかじめ決めたひとつの調の主要三和音(I、IV、V)だけで、それ以外の和音はピタゴラス音律よりもずっと響きが悪くなってしまいます。また、全音の幅が一定でなくなるので、順次進行するようなメロディが不自然に聴こえてしまうという欠点もあります。

そのため純正律で転調するととても気持ち悪く聴こえます。特定の和音はとても心地よく聴こえるのに、あちらを立てればこちらが立たずです。でも演奏中にピッチをコントロールできる管弦楽器なら「基本的には他の音律を使い、ピンポイントで純正音程の和音を鳴らす」といういいとこ取りができるんです。

純正律では長2度に2種類の音程ができます。Cdurで考えると、ド-レの方がレ-ミよりも広い長2度になってしまうんです。どちらも同じ全音なのに音程の幅が違うなんて変な感じですよね。この広い方を「大全音」、狭い方を「小全音」と呼びます。周波数比はそれぞれ、9:8(204セント)と10:9(182セント)です。

純正律が使いにくいので、ピタゴラス音律の純正な完全5度を諦め長3度の方を純正にして使おうという考えから「中全音律」(英: meantone temperament)という音律が生まれました。英語の「ミーントーン」とも呼ばれることも多く、長3度を純正にするために狭めの完全5度を使って音階を導き出しています。

中全音律というネーミングは、大全音(204セント)と小全音(182セント)の中間の全音(193セント=純正律の長三度のちょうど半分)を持つ、というところから来ています。また、中全音律の”狭めの完全5度”は純正と比較すると約5セント強狭いのですが、その理由は次のような手順で検証することができます。

G2→D3→A3→E4となります。このE4はC2の第5倍音と同じ音高ですが、倍音のように純正な整数比になっていません。「シントニックコンマ」と呼ばれる僅か21.5セント程度の差ですが、これがピタゴラス音律と中全音律&純正律の長3度の違いです。

純正な完全5度を4回重ねると長3度はシントニックコンマ分広くなってしまうので、完全5度は少し妥協して1/4シントニックコンマ分狭くしておけば、長3度が純正になります。つまり中全音律は、長2度が1種類のみ、かつ純正な完全5度より1/4シントニックコンマ狭い完全5度でできている音律というわけです。

ピタゴラス音律や中全音律の完全5度は、積み重ねて数オクターブ上の同じ音に戻る時にずれが生じます。ジャストに合わせるにはどこかの5度を調整する必要がありますが、純正な完全5度から離れるほど周波数差による”うなり”が発生し、これがまるで狼の吠声のようなので「ウルフの5度」と呼ばれています。

ピタゴラス音律にはピタゴラスコンマ分”狭い5度”が、中全音律は1/4シントニックコンマで狭めた分を補うための”広い5度”が、それぞれウルフになっています。ウルフの現れる音程がなくなるように、あるいは少しでもうなりが軽減するように、15世紀には様々な音律のパターンが考えられました。

16世紀に入るとようやく全ての調へ等しく転調可能な音律が登場し、少しずつ浸透していきました。1オクターブに存在する全ての半音を、均等な周波数比で分割した画期的な音律です。完全に確立され主流となるのは17世紀に入ってからですが、これが現代の私たちにとって最も馴染みの深い「平均律」です。

平均律は多くの人が日常的に使っている音律なので特筆すべきことはありませんが、純正律との絡みでの注意点をひとつ。よく合奏で「長3和音(Majorコード)を演奏するとき第3音を担当する奏者は低めに、第5音なら高めにとれ」という話を耳にしますが、具体的にどのくらい上下させるべきか知ってますか?

これってつまり、その長3和音だけ純正律にして純正調を作り出そうという意図なわけですが、純正長3度は平均律の長3度より約-14セント狭く、純正完全5度は平均律の完全5度より約2セント広いのです。つまり、第3音でこそ半音の1/7程度下げますが、第5音は何もしない方が良い(人間にはできない)んです。

周波数、倍音、音律などは音楽というより音響学的な要素が色濃い分野ですが、「音」の前提として知っておくと演奏をする時はもちろん、作編曲時の音の選択にも役立ちます。例えばもし金管楽器が吹けなかったとしても、倍音列からそのフレーズが現実的か否かの目星をつけるというような事ができます。

周波数の知識は音楽制作におけるMIX時にも有益です。ある楽器の特定の音がこもっていたり、他の楽器と干渉してしまっている場合に、その音の周波数付近をEQで削ると途端に解決することがあります。そのアタリをつけるためにVn最低音(G3)は約200Hz、Fl最高音(C7)は約2kHzなどと覚えておくと便利です。

6-3 音色

周波数の次は倍音の話です。有名な倍音確認方法として、ピアノの中央付近の鍵盤をひとつだけ(音が出ない位の弱さで)押し込んでおき、その状態でオクターブ下の鍵盤を弾く(音を出す)というものがあります。弾いた方の鍵盤のみ指を離すと、打鍵していない方の音が共鳴して残ります。これが倍音です。

この時、打鍵した方を「基音」共鳴したオクターブ上を「第2倍音」といいます。基音と各倍音との音程関係は決まっていて、第2倍音は基音の1オクターブ上、第3は1オクターブと完全5度、第4は2オクターブ、第5は2オクターブと長3度、第6は2オクターブと完全5度、第8は3オクターブ上です。

つまり、ひとつの音を鳴らしているつもりでも、実際にはそのオクターブ上や更に高い音が無数に鳴っているということなんです。同時にいくつも音が鳴っていると何の音かわからなくなりそうですが、基音に対して倍音の量はごく僅かなので、基音の音高=その音の音高としてはっきり感じることができます。

倍音は音色に大きく影響します。特定の楽器の音だと認識できるのは、倍音成分が特徴を持っているからです。わかりやすいのはクラリネット属と、シンセサイザーで作る「矩形波」や「三角波」と呼ばれる波形の音色で、いずれも偶数倍音を含まないため、自然音と電子音ですが似たような音色をしています。

2^n(累乗)次倍音は基音とnオクターブの関係にあるので、偶数倍音を含まないクラリネットのような閉管楽器は基音とオクータブ関係にある倍音が鳴らないという特徴を持ちます。なお、3*2^n次倍音は1+nオクターブと完全5度、5*2^n次倍音は2+nオクターブと長3度の関係になります。

一般的な楽器音など、規則的な振動が持続する音(倍音や無数の高音を持つ音)を「楽音」といいます。「音楽」じゃないですよ。”楽を奏でるための音”という意味です。また、倍音を一切持たない時報や音叉の音を「純音」、振動に規則性がなくピッチを感じにくい打楽器のような音を「噪音」といいます。

6−1 音高

さて、吹奏楽っ子にもバンドマンにもDTMerにも関係の深い話題ということで、「音」そのものについて呟いていきたいと思います。中央のCの長6度上のAの音が440Hz前後だということは、どのジャンルの音楽人でも概ね共通認識を持っていると思いますので、ここから話を進めていきますね。

チューニングでよく耳にする440Hzですが、これは音波の周波数のことで、噛み砕くと1秒間に440回の空気振動が発生している状態です。ここから毎秒1回増えると441Hzに、さらにもう1回増えると442Hzになります。時代、地域、ジャンルによって様々ですが、国際標準は440Hzです。

「Aを何Hzに合わせるか」を演奏会では「コンサートピッチ」音楽制作では「マスターチューン」と呼びます。より張りのあるサウンドを得るため、国際標準を無視して442Hzやそれ以上に合わせる風潮があります。管・弦楽器は比較的気軽に調律できますが、ピアノなどは急には変更できませんよね。

周波数が倍になると音高は1オクターブ上がります。コンサートピッチが440Hzなら、そのオクターブ上のA音は880Hzです。コンサートピッチが442Hzならオクターブ上は884Hzです。でも普遍的でない周波数でオクターブ関係を表現するのは煩雑なので、他にもいくつかの方式があります。

音楽の授業で習うのは、日本式である「A440=一点イ音」という方式です。これはドイツ式の「A440=a1」を日本流にアレンジしたものですが、とにかくわかりにくくて、せっかく義務教育で学ぶのにまったく実用的でないんです。実際、学校以外で使われているのを見聞きしたことがありません。

現在、音楽制作畑を中心に最も普及しているのは国際式の「A440=A4(エーフォーと読みます)」です。この方式だとA4のオクターブ上はA5(エーファイブ)、中央のドはC4(シーフォー)、その半音下はB3(ビースリー)となります。ところが、明快なこの方式にも一つ困った問題があります。

YAMAHAなど世界的に有名な楽器・音楽ソフトメーカーのいくつかが、国際式の「A440=A4」ではなく独自の「A440=A3」という方式を採用しています。これが実に紛らわしい話で、YAMAHAクラスのメーカーだとそちらの採用方式で覚えてしまう人が多いんです(私もその一人でした)。

こういった事情から、絶対的な音高はノートナンバーという各音固有の番号で識別します。中央のドを「60」とし、半音上下するごとに±1します。つまりオクターブ上のドは「72」下は「48」です。でも、曲の旋律となると番号では感覚的に捉えられないので、やっぱり五線譜ってすごい発明ですよね!